奥山貴宏さんというライター

私が彼の存在を知った時
それは、若者が集まって、車座になり
みんなで毎回いろいろなテーマで討論をするという番組でだった。
その回のテーマは自殺について。
自分はリストカット症候群だという若者や
どうやって死のうか考えている若者が
自分たちのやるせない想いをせつせつと訴えていた。
ゲストのタレントの人や大人が
そんな若者たちに 命の大切さを一所懸命説いていた。
だけど若者たちは、そんな事はもういままで何度もいわれてきたというように
大人たちに向かってさらに激情して討論もヒートアップしてきた。


その時、番組開始から静かにみんなのハナシを聞いていた青年が
はじめて口をひらいた。
「俺さ、病気で医者からあと2年ていわれてるんだよね。」
その途端いままで死にたいだの手首何センチ切ったことあるだのと声高に訴えていた若者たちは下を向き
スタジオ内はシーンとしずまりかえった。

その青年は奥山貴宏さんといった。
背が高く(病気のせいもあったが)痩せていて、でも目がとても力強くて
なによりも、自分がガンで余命宣告をされているにもかかわらず
感情的にもならず、あくまでも淡々と話すその姿に。。。
そのあとにつける自分の気持ちはなんだろう。
感動した涙が出た胸を打たれた
そんな言葉では表現できない。

その後奥山さんが出した「31歳ガン漂流」を読み
ネットで奥山さんの日記を毎日読んだ。
それらを私はガン闘病記というカテゴリーで読んだことはなかった。
ほぼ毎日更新されるその日記には
奥山さんがリアルタイムで聴いている音楽
昨日みた映画の評論
そういう事が事細かに記されていた。
奥山さんにふれると同時に
今の時代の動いているもの
活きている物をつかませて貰った。

奥山さんは、ライターのなかのライターだった。
つらい体に鞭打って毎日日記を更新し続けたのも
ライターとしてリアルな自分の生といずれやってくる死をつたえたかったのではないかと思う。
2005年4月 17日
奥山さんは3冊の本とサイトを遺して旅立った。

2005年7月23日
NHKで奥山さんのドキュメンタリーが放送される。
泣くなと自分にいっても無理だろうが
この日はしっかりこの目で奥山さんの姿を見ておきたいと思う。


32歳ガン漂流エヴォリューション
奥山 貴宏
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5 生き残る本